広い空間をイメージしてクラリネットを吹こう
クラリネットを練習する時に、「空間」を意識したことはありますか?
現在、東京クラリネット教室のレッスンで使っている部屋は、どうしても広さに限りがあるので、生徒さん達の演奏が「対譜面台」「対楽譜」になっているな、と感じることがちょくちょくあります。
たとえ狭い練習室で練習していても、そこがよく響くホールや、教会などであると想像することで、音の出し方や聞こえ方は大きく変わってきます。
では、空間の意識が、演奏にどのような影響・効果があるのか、考えていきましょう。
広い空間のイメージで変わること
広く、響く空間を想像することで変わる点は、主に以下の通りです。
- 姿勢が良くなる
- 息の方向が前に向く
- 体の力が抜ける
- 演奏がのびのびとする
1つ1つ、具体的にご説明しますね。
姿勢が良くなる
自分の置かれている空間が狭いと、どうしても目線が下がります。
特に、楽器を吹く時には、目の前に譜面台があることが多いと思いますので、目線が下がるのと併せて、譜面台と顔が平行になり、それが前述の「対譜面台」「対楽譜」に繋がります。
顔が下を向いてしまうと、首が前に出てしまいがちになり、座り方自体がこぢんまりとしてしまいます。
それを、譜面台のもっと先、ホールの最後列くらいの距離に意識を向けることで、自然に顔が前を向きます。
顔が前を向けば、背中もすっと伸びて座れる、ということになります。
楽譜は、目だけを下げて見るようにしましょう。
息の方向が前に向く
クラリネットを構えると、下に向かって息を吹き入れる形状をしていますね。
素直に息を入れてしまうと、息の行き先の目標が、爪先からほんの少し先になり、直径1mくらいの範囲で楽器を吹いているような感覚に陥りがちです。
そのような吹き方をしていると、音は遠くに飛びません。
あまり意識をしていないかと思いますが、吹奏楽・オーケストラで使っている楽器の中で、ベルが下を向いているのは、実はクラリネットだけです。
アマチュアの吹奏楽団に属していた時、本番の日にホールに行ってみて、リハーサルを客席で聴くと、クラリネットだけが聞こえない…という経験が何度もありますが、それは楽器の構造上の問題だけではなく、普段から空間を特に意識せず、楽器に沿って素直に息を入れてきた結果です。
遠くの人を呼ぶ時に、自分の足元1mあたりを狙って声を出すことはしないですね。
「声の大きさ」というよりは、「声を飛ばす」ことを意識して、息を流すはずです。
クラリネットを吹く時も同じ。
広い空間を想像して吹けば、いくらベルが下を向いていようと、息を前に飛ばすことが自然にでき、遠くに届く音を出すことができます。
体の力が抜ける
遠くに飛ぶ声、遠くに飛ぶ音を出すには、力みは禁物です。
体全体、もしくは腹筋に「うっ」と力を入れて声を出すと、びっくりするほど細く、響きのない声が出ると思います。
そのような状態で、遠くの人を「お゛ーい゛」と呼ぼうとする人はいないですよね。
管楽器の中でも、特にクラリネットは、マウスピースをくわえ、1㎜程度のマウスピースとリードの隙間に息を入れる、という形状なため、音を出すのに力が入りやすい楽器です。
「対譜面台」「対楽譜」では、それが顕著になります。
しかし、広い空間をイメージすることで、音を前に飛ばすことに意識が向くので、遠くの人を呼ぶ時のように、体自体の力を抜くことが自然にできるのです。
演奏がのびのびとする
先程までは、広さを想像していたかと思いますが、今度はホールや教会など、よく響き、残響のある空間を思い浮かべてみましょう。
響く空間であれば、頑張って大きい音を出そうとする必要はありませんね。
もちろん、息はしっかり入れて、きちんと音を出すことは大前提なのですが、必要以上に大きい音を出そうと頑張ると、体は硬くなり、緊張状態に陥り、かえって息が細くなってしまいます。
それでは、演奏の自由度が極端に下がります。
歌い込もうと思っても、歌いきれません。
響きのある空間で、頑張る必要がないのであれば、その逆ですので、演奏はより自由にのびのびと、思うままにクラリネットを操れる、というわけです。
広くて響く場所を常に頭の中に持つ
「イメージなんかで演奏が変わるの?」と思われるかもしれませんが、教えている立場から見ると、その差は歴然です。
例えば部活のパート練習などで、普通教室を使うことがあれば、教室の後ろに椅子を置いて座ってみましょう。
そして、「譜面台に向かって吹く」「前の黒板に意識を向けて吹く」の両方を試してみて下さい。
1人ずつ順番に、黒板の前で他の人達の演奏を聴いてみると、よりわかりやすいと思います。
個人でクラリネットを始められた方は、大きいホールで吹いているところを想像するのが難しいかもしれませんが、思い浮かべるのは大浴場などでもいいので、広くて響く空間をイメージしながら練習に励んでみて下さい。
演奏のスケールが大きく変わりますよ。