クラリネットが現在の形に至るまでの歴史
クラリネットとは?
「クラリネットをやっています」と言うと、必ずのように「あぁ!壊れちゃったやつですね」とか「パパからもらったやつですね」と言われます。
大抵は、そこまでで終わり。
クラリネットは、色や形状も知られていない、地味な楽器です。
しかし、実はモーツァルトの時代(18世紀)には生まれていた歴史のある楽器で、現在ではオーケストラに欠かせない存在であるのはもちろん、吹奏楽では「花形」とまで呼ばれ、大活躍しているのがクラリネットなのです。
ここでは、皆さんにクラリネットという楽器を少しでも知っていただくために、私が知っていることを書いていきたいと思います。
クラリネットの誕生
先程も少し書きましたが、クラリネットの歴史は1700年代まで遡ります。
フランスで生まれた『シャリュモー』という、リコーダーのような楽器を、ドイツ・ニュルンベルクの楽器職人、ヨハン・クリストフ・デンナーが改造して製作したのが始まりと言われています。(既存の楽器に新たに手を加えて新しいシステムの楽器を作り出す場合、「改良」ではなく「改造」という言葉が使われます。なぜなのかは、また別の機会に。)
ゲルマン国立博物館(ニュルンベルク)に展示されている、デンナーが作ったクラリネット。
…だと思います。
ニュルンベルクでクラリネットが生まれたことは知っていたのに、あろうことか何も考えずこの博物館を巡ってしまい…
あとから思い出して慌ててデジカメを見返してこの写真を見つけたので、説明書きなどが何もわからない状況です。
次回渡独の際は、必ず確認してきたいと思います。
さて、上の写真を見ていただいてわかるように、まだこの頃のクラリネットにはほとんどキィがついていません。
左手人差し指で押さえるキィと、左手親指で押さえるキィの2つだけです。
この2つのキィにより、クラリネットはシャリュモーとは比べ物にならないくらいの音域を得ました。
ただ、音域が広がったことにより指づかいが難しくなり、音程が安定しない音が増えてしまったのです。
その2点を解決するため、長い年月をかけ徐々にキィが増え、現在の形になっていきます。
なお、デンナーの改造によって得られた音域の音色が、高音トランペットの『クラリーノ』に似ていたため、『クラリネット』という名前がついたと言われています。
ドイツ管とフランス管の成り立ち
クラリネットのキィシステムが大きく発展したのは、19世紀初頭です。
生まれた時は2つのキィだったクラリネットは、5キィ・6キィ・10キィなどの楽器を経て、1812年、ドイツ人のミュラーによりキィが13個ついた楽器へと進化しました。
『ミュラー式クラリネット』と呼ばれるこの楽器は、のちに誕生する『エーラー式クラリネット』の基礎となりました。
エーラー式クラリネットとは、ドイツのクラリネット奏者で楽器製作者のオスカール・エーラー(ベルリンフィルハーモニー管弦楽団の創設メンバーの1人)が、1900年代に発明した楽器です。
ミュラー式は、特定の音の鳴りが悪かったり、音程が悪かったりしましたが、エーラー式ではそれを補正するために、新しい音孔(楽器に開けられた穴のこと)を追加しました。
ドイツ管
よく言われる『ドイツ管』というのは、このエーラー式と、ウィーンで正統的なシステムと公認されていて、エーラー式と若干異なる点を持つ『ウィーン・アカデミー式』を指します。
少し暗めながら、艶やかで温かみのある音色がするドイツ管は、ドイツやオーストリアで主に使われており、ドイツ管吹きでないとベルリンフィルやウィーンフィルに入ることはできません。
フランス管
一方フランスでは、1843年に楽器製作者・ビュッフェと、クラリネット奏者で音楽院教授のクローゼによって『ベーム式クラリネット』が作られました。
ベーム式とは、ドイツ人フルート奏者で製作者のテオバルト・ベームが、それまで小さかったフルートの音量を大きくしたり、指づかいが容易になるように1832年に開発したシステムです。
ベーム式クラリネットは、ベーム自身が開発したものではありませんが、ベームのキィシステムを採用しているので、そのように呼ばれています。
この楽器が『フランス管』です。
ベーム式は、指づかいがわかりやすく、音程が安定しているので、現在では世界中でこのクラリネットが使われています。
他にも、エーラー式用の管体にベーム式のキィシステムを取りつけた『リフォームド・ベーム式』、ジャズやディキシーで使われることの多い『アルバート式』などがありますが、ほとんどのクラリネット奏者がドイツ管かフランス管を使っているのが現状です。